人間椅子 おどろ曼荼羅~ミュージックビデオ集~ インタビュー



Text by 志村つくね  


■今、映像集を出せる喜び


――4月4日にBlu-ray/DVD『おどろ曼荼羅~ミュージックビデオ集~』がリリースされました。人間椅子初のプロモーションビデオ集で、中村蒼主演、三島由紀夫原作ドラマ『命売ります』の主題歌のために書き下ろされた新曲「命売ります」のMVも初収録。デビュー当初から最新作に至るまでを網羅した作品ですが、このタイミングでこうした映像集を出すお気持ちは?

和嶋慎治(以下、和嶋) 僕たち、今年でメジャーデビュー29年目で、来年30周年を迎えるんです。そんな節目が迫ってきているなかで、今までに溜まってきた映像を出すちょうどいいタイミングかなと感じますね。MVって、たとえばライヴ映像をリリースした時に特典として付けるとか、そういう細切れの形でしか出してこなかったんです。それが一堂に会するのは今までなかったことなので、30周年を目前にした今、全部出してみるのはいいのではないのかな、と。



――全16曲を一気に拝見したんですが、非常に面白かったです。


鈴木研一(以下、鈴木) 正直キツかったでしょう?(笑)1曲1曲が長いから。

――そんなことはないですよ(笑)。こうやって全MVをまとめて観るような機会はなかなかないですよね。


和嶋
 そう思います。結局、プロモーション・ビデオですから、その時々にしか出さないものなんです。今まで、それが集まるということをあまり考えたことはなかったんですけど、30年近くもやってきたからこそ、こういう作品集ができたのかなって。

――映像の風合いの変遷も興味深いです。


和嶋
 時代ごとのテクノロジーが観られますからね。撮影当時の流行りの映像の編集方法と、我々のデビュー期から今に至るまでの年の重ね方。この二つがポイントだと思うんですよね。

――確かに。皆さんの風貌の変化も見所です。〈おどろ曼荼羅〉というタイトルにはどんな意味が込められているのでしょう?

和嶋 オリジナル・アルバムだと、トータルなコンセプトでタイトルを付けられるんですけど、この作品は時代を切り取った映像集ですから。それをどう一つの言葉で表そうかなと思った時に、人間椅子というグループを核として映像が周りに広がっていく様子が“曼荼羅”っぽいなと思って。あと、基本的に自分たちは猟奇っぽいこととか、戦慄するような音楽をやりたいと思ってるんで、“おどろ”というわかりやすい言葉を付けてみたんです。

――なるほど。ライヴ感を前面に出したものから、短編映画風のドラマ仕立てのものまで、実にさまざまな映像を作られてきたことがわかります。
 
和嶋慎治
      和嶋慎治

和嶋 それはつまり、予算に応じて……(笑)。

鈴木
 そうそう(笑)。デビューの頃は随分僕らにお金をかけてやってくれてたってことが、今になってやっとわかるんですよね。当時は、わかんなかったですよ。こういうものだと思ってて。

和嶋 最初の2曲(「りんごの泪」「夜叉ヶ池」)なんか特に凝ってるよね。その後の「ギリギリ・ハイウェイ」「ダイナマイト」で突然ライヴ映像になって、予算がかかってないのがよくわかるっていう。

一同 (笑)

鈴木 MVを出してない時期もある。そこはもう、それすら撮れなかったっていうぐらいに落ち込んでた時でしょうね。

和嶋 言っておきたいのは、「ギリギリ・ハイウェイ」「ダイナマイト」「浪漫派宣言」あたりは、MVを作ったものの、実はあまりプロモーションの役割を果たせなかったビデオなんですよ。「どこに出せばいいんだろう?」みたいな。特に「浪漫派宣言」はそうですね。

――今のように、ネットで簡単に観られるような時代でもなかったわけですし。

和嶋 そう。YouTubeに上げるっていうわけでもないし。自分たちでも存在を忘れかけていたようなMVも入ってるんです。でも、人間椅子としてプロモーション・ビデオを作るんだという意識のもとに制作したものは、これで一応コンプリートされていると思います。

――これを観れば、人間椅子というバンドの出来上がり方を追体験できるわけですね。

和嶋
 ホントに全部入れました。

鈴木    ったいないぐらい全部出しちゃったんですよね。小出しにしてもいいのに(笑)。




■衝撃映像の数々、そして蘇る記憶


――昔からのファンの方が初めて目にするような映像も収められているんですね。

和嶋 「ダイナマイト」とかは観たことない人いっぱいいるんじゃないですか。

ノブ(ナカジマノブ、以下ノブ) 俺は観たことなかった! 「ギリギリ・ハイウェイ」も!

鈴木 これは徳間所蔵のものプラス和嶋くんがかき集めてきた映像なんです。かなりの秘蔵版だし保存版ですよ。

和嶋 まさに蔵出し映像です。で、「ギリギリ・ハイウェイ」と「ダイナマイト」は昔、青森で人間椅子倶楽部というテレビ番組をやってた時に、そこがプロモーションしましょうよって撮ってくれて。青森のテレビでは流れたんですけど、全国では流れてない映像なんです。今回、それを作ってくれた人に連絡して、映像を探し出してもらったというわけです。

――ちなみに、これは青森で演奏されている映像なんですか?

鈴木
 俺、東京であんな上半身裸になるとは思えないんですよ。

一同 (爆笑)

和嶋 少なくとも「ギリギリ・ハイウェイ」は東京です。僕、海軍の軍服を着てるんですけど、あれはフジテレビの貸衣装屋さんから借りたんですよ。

鈴木 だけど、和嶋くん、「ギリギリ・ハイウェイ」は髪短いけど、「ダイナマイト」は髪長いよね。

和嶋 あ! 「ダイナマイト」は青森だったかな。

鈴木 そうだよなぁ。そんな短い間に髪切って、どうやって同じアルバムの2曲を撮ったのかな?

和嶋 なんとなく思い出すのは、あの頃、自分の父親に不幸があった時期で、長かった髪を田舎に帰る時に切ったんですよね。

鈴木 その頃に「ダイナマイト」を撮ったんだ。で、しばらく経ってから「ギリギリ・ハイウェイ」の映像を撮ったんだね。アルバム・リリースのタイミングじゃないところで。

和嶋 やや近いところだとは思うんだけど。多分、このぐらいの時期に実家に帰るか帰らないかって言ってたから。

鈴木 土屋(巌)くんが叩いてる時期ってそんなに長くないもんね。場所は違うんだね。同じような色合いだったけども。
 

――なるほど。ご本人たちもその辺の記憶が定かではない、と。

和嶋 そうそう。

鈴木 ウヤムヤで、よく憶えてないことだらけ。なんで俺は「ダイナマイト」で水中メガネをかけてるかっていうね。

一同 (爆笑)

ノブ ホントに、なんで!?(笑)あれは水中メガネなの?

鈴木 わからない。きっと、誰かのを借りたんだと思うんだよね。
                   鈴木研一


――なんだかカート・コバーンっぽい見た目で、新鮮でした(笑)。


鈴木
 周りの人が「これいいっすよ!」って俺に勧めてくれて。

和嶋 それで多分、アンコールでかけたんだよ。

鈴木 「じゃあ、使ってみよう」ってやったのが映像になっちゃっただけで。
 

――人に歴史あり、ですね。

和嶋 で、また、鈴木くんが痩せてるんですよね(笑)。

鈴木 あれを観て思ったけど、ファンの人はよく僕に「痩せろ、痩せろ」って言うんですよ。だけど、今観たらヒョロヒョロでカッコ悪くて、やっぱ太ってるほうがいいなって思ったんだよね(笑)。

和嶋  まぁ、そうかもね(笑)。

ノブ 今がいちばん迫力あるもんね(笑)。

和嶋 僕も結構びっくりしたわけですよ。常日頃、鈴木くんを観ていて、徐々に体重が増えてったから、わからなかったんだけども。こんなに痩せてたのか、と。

鈴木 でもさぁ、俺は和嶋くんの髪型にもすごい注目して観てたよ(笑)。

和嶋 徐々に薄くなってるからね(笑)。そして、ある時期から急に白くなりますからね、僕の髪の毛。

ノブ どこからだろう? 「品川心中」あたりはまだ……。

和嶋 黒いんだよ。自分でもびっくりしたけど。



鈴木 突然、後退し始めるんだよ。どっかから。

和嶋 「なまはげ」あたりから(笑)。

一同 (笑)

和嶋 それは多分、バンドが忙しくなってきたからだね。

ノブ そうだよ! 「浪漫派宣言」の後、MV制作の間隔が空いて、この間にだんだん忙しくなってきて。


――この約5年の空白期間にオズフェスト(※OZZFEST JAPAN 2013)を挟んでいますね。

和嶋 そこで一気に老化して白髪が増えたんだよ(笑)。

ノブ 一応、ライヴを寄せ集めて編集した「今昔聖」の映像もあったんだけど、ちょっと違うかなってことで、今回の収録は見合わせたんです。

和嶋 あれはプロモーション・ビデオを作ろうっていうのじゃないんで。

ノブ 口パクも合ってないんだよね。

和嶋 あと1~2曲、そういうのがあるんですよ。今回は監督を立ててちゃんと編集したものをMVという括りにしたから。「今昔聖」は、何を隠そう僕が編集したやつなんです(笑)。だから、世に出さなくていいですよ。

鈴木 いや~、でも、それは観てみたいね。『おどろ曼荼羅 Vol.2』が出た暁には入れてほしいな(笑)。今後どんどんMVを作って、また10本ぐらい溜まった時に、おまけ映像として。

和嶋 そうだね。さらに蔵出しをしたいね。ノブくんも「浪漫派宣言」を観たら、すごい若いと思った。あんまり変わってないと思ってたんだけど。

ノブ 若かったね! ていうか、「洗礼」もすごい若いよ。


――2004年に人間椅子に加入されたノブさんは「洗礼」からの登場です。このMV集で、ノブさんはある意味、客観的に和嶋さんと鈴木さんの歩みを観ることができたのでは?




ノブ いや、ホントに。観たことのない映像もあったし、YouTubeとかでなんとなく観たことはあったんだけど、こうやって順番に観ていくと、「おお! すげー変わってる!」って感動するよね。特に「りんごの泪」と「夜叉ヶ池」は衝撃的だったな。和嶋くんと鈴木くんが今と全然違うっていうのもそうだけど、「これ、どこで撮ったんだろう?」ってすごい興味が湧いた。

和嶋 凝ってましたね、この時は。

ノブ あれ、絵コンテとかも結構細かかったでしょ?

鈴木 当時の事務所の社長がそういう仕事が大好きだったんですよ。

和嶋 そう。映画とか芝居が好きな方だったんですよ。

鈴木 で、脚本を書いたり、ドラマチックな演出をするのが大好きだった。

ノブ 二人とも、ちょっと演技してるもんね。

和嶋 演技させられた(笑)。

ノブ そういうところが面白かった。曲自体は普段自分でも演奏してる曲なんだけどね。「俺もここに映りたかったな!」とか思いながら観てる(笑)。
     ナカジマノブ
 


――なるほど。昔の映像のなかに今のノブさんが参加してみたい、と。

ノブ ここに自分が映ってると、もっと面白いと思ったりして。

鈴木 じゃあ、次のMVでは演技を頑張ってみますか!

一同 (笑)

和嶋 あと、トータルで観ていくと、自分たち以外の方に絵コンテを作ってもらったMVのほうが面白いのかなとも思ったよ。

鈴木 「こういう風にしたい」とか監督に言ってね。

和嶋 そう。ある意味、丸投げしちゃって、我々を素材にドラマを作ってくださるほうがね。たとえば、「洗礼」もそんな感じだったと思うんだよね。そういうもののほうが出来上がりは面白く見えますね。僕らはあんまり「いや、それは……」とか言わないようにしたほうが、良いものができるのかもしれない。


――監督にしてみれば、皆さん、キャラが立っていて、動かしがいがあるのかもしれませんね。

鈴木 次はそういう余白をいっぱい残して注文して……。

ノブ 演技しますか!

鈴木 土曜ワイド劇場みたいにね(笑)。

和嶋 きっとその分、予算はかかるんですけど、もう次を撮影したい気分ですね。

一同 (笑)
 



■MV撮影の傾向と対策

鈴木 やっぱり、MVを撮るにしても人間椅子は曲が長いですよね。なんかこう、間延びするのもあるなぁと思って。

ノブ ははは!

和嶋 短い曲をビデオにすればいいのかな。

鈴木 ちょっとそこは曲を選ぶ時に考えたほうがいいかもしれない(笑)。

和嶋 7分台とかだと、もたないのかも。このMV集を観ていくと、他にもいろいろ気付いたことがあって。自分でもびっくりしたんだけど、「品川心中」の僕がなんとなくやる気がないんだよね(苦笑)。

鈴木 あれはさ、いっぱい撮ったなかで力を入れてる演技もあったはずなんだよ。ところが、ああいうテイクが使われてね(笑)。あれ、落語家の素っ頓狂な感じが出てて、いい味出してるもん!


――和嶋さんが語りを披露する終盤の場面も最高でした。宴席で鈴木さんとノブさんがそれを聞いているという構図。

和嶋 あれも良かったよね! 肩の力が抜けていて。

鈴木 あの感じが最高にいいんですよ。

ノブ 俺はあと、あの時のエアドラムがね。これをやった時、自分はすごい恥ずかしい気持ちだったなっていうのをちょっと思い出したよ(笑)。

鈴木 ファンはそういうのが観たいんですよ。普通に頑張ってドラムを叩いてるのは、ライヴでいつも観てるし。そうじゃないノブくんを観たいはずなんだよね。ベースもそうだけど、楽器を持ってない俺がどういう風に動くか、みたいな。だから、俺はジャーニーの「セパレイト・ウェイズ」のMVが好きなんですよ。

ノブ あれは最高だよね!


――古今東西のMVと見比べてみると、この人間椅子の映像集がさらに味わい深くなるかもしれませんね。

和嶋 どのMVも、みんな頑張って撮りました。で、一つひとつに思い出があるんだよね。まあ、「ギリギリ・ハイウェイ」と「ダイナマイト」は思い出せなかったけど(笑)。「洗礼」を撮った時は、ものすごい暑かったなとか。

ノブ 暑かった! なんかプレハブみたいなところで撮影したね。

鈴木 あれはよくなかったね。暑くてメイクが落ちてドロドロになっちゃって、これはもう撮る状況じゃないってギブアップしたぐらいの。

ノブ 外のコンクリートの上で横になってたもん、研ちゃん。

和嶋 そう! 失礼ながら、クジラが打ち上げられた状態みたいになってて(笑)。

ノブ あの時期までは髪長いんだよね。

鈴木 どんな映像を撮るにしても、もう俺ら年だから、冷暖房完備っていう条件外せないね。

和嶋 洗礼はさ、一応、撮影スタジオとは言われてたんだけど、実際に行ってみたら、倉庫みたいなところだったんです。しかも真夏だったから。

ノブ 通気性ゼロ!

和嶋 で、このMVは画像が合成だから、バックに黒幕みたいなのを垂らして撮影したんだけど、締め切って演奏してたもんだから、すっごい暑かった。

鈴木 そうそう。ご近所迷惑になると思って、音も小さくしてやったんだよな。

和嶋 そして、「宇宙からの色」の時は、すごい寒かった(笑)。上野原の山奥で。

ノブ 真っ暗だったもん。

鈴木 俺は全16曲のなかで、この撮影の印象が最悪ですよ! ホントに二度とこういうことが起きないように、ちゃんと書いておいてください(笑)。



一同 (笑)

ノブ 確かに過酷な環境ではあったね。

鈴木 1月に、暖房のないところで素っ裸になってメイクするのは、もう無理なんですよ(笑)。

ノブ 工事現場みたいな3畳ぐらいのところで……。俺、それまでまったく穿いたことなかったんだけど、これ以来、毎冬、股引を穿くようになったからね。

和嶋 そのぐらいトラウマになるような環境でした。これを最後に、もう野外の撮影はやめようということになったんです。今後もないかな(笑)。


――撮影環境を整備する必要がある、と。

鈴木 キャンピング・カーみたいな避難所があればね(笑)。

和嶋 考えないでもない(笑)。

ノブ だってこれ、ホント大変だったよ。


――極端な暑さも寒さも両方経験されているという。こうして振り返るうちに、続々と撮影にまつわるエピソードが出てきますね。

和嶋 1曲ずつ語れるぐらいです。16曲という収録数は、活動年数を考えれば、それなりに多いんじゃないかな。

鈴木 特に昔のバンドは、プロモといっても、みんなに観てもらうYouTubeみたいなものがなかったから、そんなにMVを撮ってないんだよね。最近のキッスは撮ってるけど、いちばん売れてた時期のキッスのMVってないんですよ。

和嶋 なるほどね。やっぱりMTV以降なんだよね。

鈴木 80年代以降。人間椅子はちょうどそこに当てはまるんです。そういう時代が始まってからデビューしたバンドだから、最初から映像が残ってる。


――ここには昭和の匂いが漂う映像も収められていますが、実は全部、平成の始まりから終わりまでの記録なんですよね。

和嶋 そうです。このMV集を観れば、平成を疑似体験できるんです。もう終わろうとしている平成という時代が、ここには詰まってますね。


――非常に過酷な環境での撮影があったかと思えば、近年のMVでは最先端の技術が駆使されたりもしています。



和嶋 そう。MV撮影が中断してる時期もあったけれども、ありがたいことに、ここ最近はおかげさまで、我々の活動が順調なのがMVからもわかると思います。「浪漫派宣言」と「なまはげ」の間は5年空いてて、この頃がいちばん売れてないかも。そういう時期を経験しつつ、2014年からはすごくコンスタントに出せてますよね。


――やはり、オズフェスト後の手応えは相当なものなのでは?

和嶋 うん。そうだと思います。そして、今もMVを作らせてもらえる状況にいるっていうのは、幸せですよね。


――「動く人間椅子の姿を観たい!」という声も多いんだと思います。

ノブ 俺は「なまはげ」も印象深いな。ファンクラブの人たちに参加してもらっての撮影だったから。みんな、聴いたことのない曲を、その場で初めて聴いてね。



和嶋 曲を説明して、「ここでこういうサビだから、盛り上がって!」なんて言ってね。今回、最新作「命売ります」を入れることができたのもよかった。これはまだ、盤としては出してないですけど、BSジャパンのテレビドラマの主題歌として作って、せっかくだから、MVも撮ってこの映像集に入れようっていう感じでね。


――このMVにはダンサーの田中泯さんも参加されています。

和嶋 はい。タイアップ感を出したかったので。素晴らしいダンスが入ることによって、ただ演奏シーンが収められているだけではなくて、ドラマを感じるようになりました。


――今までにありそうでなかったタイプですよね。楽曲も映像も。

和嶋 第三者が入るパターンというのは、そんなになくて。メンバー以外の人が入ることによって、さらにストーリーを感じるようになるんですね。


――人間椅子の3人が向かい合って演奏するシーンも斬新です。

ノブ あれは回転する円形ステージの上に乗ってるんですけど、研ちゃんが苦しそうで、かわいそうになりました(笑)。

鈴木 俺、三半規管が弱くて、回るものには弱いんですよ。

ノブ ちょうど俺の位置から研ちゃんの辛そうな表情が見えて。

鈴木 走ってる車から後ろを見るだけで酔うんだけど、回ったりするのは苦手なんですよ。

和嶋 すぐ酔ったって言ってたね。ノブくんと僕は実はそれほどでもなかったんだよね(笑)。
 



■尽きない撮影エピソード

ノブ ところで、「りんごの泪」の映像は海で撮ったの?

鈴木 あれは九十九里浜。

和嶋 そう。千葉県をいろいろ廻ってロケしたんだよ。

鈴木 養老渓谷に行って、九十九里に行ったと思うんだよね。館山を過ぎたのは憶えてるんだよね。

和嶋 順番としては、九十九里にものすごい朝早くに行って、撮って。だんだん中に入ってったの。

鈴木 あの女の子は今どうしてんのかって、すごい気にかかるんだよね。

和嶋 あれは監督さんの娘さんでしたね。

鈴木 あ、そうなの!? へ~。


――確かに、出演者のその後は気になります。

ノブ その子は何歳になってるんだろうね。

和嶋 もう多分、30歳は過ぎてるよね。

鈴木 あの時5歳だとしても、もう30年経ってるから、今35歳だもんね。

和嶋 あと、僕が気になるのは、「品川心中」の綺麗な女の人。

鈴木 あの女の人ね! きっと結婚して、もう、お母さんだと思うんだけど。

ノブ アルバムも2006年のものだからね。12年も前ですよ。


――僕も色っぽくて雰囲気のある方だなと思って観ました。

和嶋 モデルの方だったんですよ。この方も幸せなご家庭を築いてるのかなぁ……。

一同 (笑)
                     Photo by 西槇 太一


――是非ライヴを観に来ていただきたいですね(笑)。

鈴木 「幽霊列車」で知らない人が映ってるのも気になった。

和嶋 お婆さんでしょ!?

鈴木 あの方はどこから連れてきたの?(笑)

ノブ ははは!

和嶋 どこからだったかな? 確か、俳優事務所みたいなところに連絡して、お年を召した方にお願いしたんだよ。誰かの知り合いとか、そういうことではなかったような気がする。

鈴木 そうだったっけ? あれ、そんなに金かけたっけ? もう使われてない電車が河口湖のほうにあって、それを撮影用に貸してたんだよね。JRじゃなくて私鉄だったかな。

ノブ 俺、あれは都電かと思ってた。すごく雰囲気が似てるから。

鈴木 富士急行だっけ? その鉄道会社が持ってる普通の電車だったよ。

和嶋 そっか。鈴木くんは電車好きだから楽しいって言ってたね。

鈴木 そう。俺と(後藤)マスヒロが電車好きで、「これいい!」って二人で騒いでたのを憶えてる。マスヒロが切符切りの車掌さんの役をノリノリでやってたのは、鉄ちゃんだから(笑)。

和嶋 そうだった。僕はそこまで楽しくはなく、普通にMVのなかで歌ってたな(笑)。あとは、富士の樹海で撮影した「見知らぬ世界」が思い出ですね。

鈴木 和嶋くんがなんか「死者の声が聞こえる!」とか言い出して。俺は何言ってんだと思って(笑)。

和嶋 ホントにあの時、怖いことがいくつかあったんですよ。「和嶋さん、樹海の奥に入ってください!」って指示されて、10メートルほど進んだ時点で方向感覚がわからなくなって。誰かに袖を引っ張られたりして、怖かったよ。

ノブ ええっ!? 樹海のどの辺に入ったの?

和嶋 一般道からちょっと樹海に入る道があるじゃないですか。入ってすぐのところに車を停めて、そこから撮ったぐらいだから、全然奥までは行ってないです。

鈴木 「『おぉ~』って大勢の人が叫んでる声が聞こえた」とか言い出すんだよ。他の人は誰も聞こえてないんだけど、和嶋くんだけ。


――ウンモ星人の衣装の頃の謎めいたエピソードですね。

ノブ そういえば、和装じゃなかった時期もあるよね。

和嶋 結構そうなんですよね。「ギリギリ・ハイウェイ」から「見知らぬ世界」まではそんな感じでした。結局、僕はどういう恰好をしていいか決めかねてたんですよ。鈴木くんは白塗りっていう強烈なものがあって、自分はどうしたらいいのか、ずっと模索してましたね。

ノブ でも、俺が入ってからはずっと和装だよね?

和嶋 ようやく、それしかないかなと思って。やっぱりコンセプトがハッキリしないといけないと思いまして、和装にしました。

鈴木 ウンモ星人を観られるのは、今やこのビデオだけ。レアですよ。これは買ったほうがいいよ。

和嶋 あと、「東洋の魔女」のやっつけ感ね(笑)。

鈴木 あれはやっつけだけど、貴重ですよ。『修羅囃子』のジャケットを撮る時に、乃木大将の記念館みたいなところで撮ったんですよね。その時に動かしてたカメラの映像を使ってMVにしたんですよ。

ノブ へ~!

鈴木 ジャケの撮影とMV制作を同時に行ったっていう。花魁姿で動いてる和嶋くんは、この映像でしか観れないんですよ。

ノブ 花魁とウンモ星人と樹海が観れる作品集(笑)。

和嶋 そういう歴史が詰まってますね。ロケもいいものですよね。ロケならではの説得力があるんだよ。

鈴木 ちゃんと時期と場所を選べばね。

和嶋 それでまた、こういうことを言ってはなんだけど、見た目通りに、お金がかかってるかかかってないか、わかりますね。

鈴木 売り上げに比例してるんだよね(笑)。


――生々しいお話です(笑)。

ノブ 「洗礼」とか「品川心中」とかはそれなりなんじゃないの?

和嶋 それなりにお金かかったと思う。ぐっと下がったのが「浪漫派宣言」。

一同 (爆笑)

ノブ 「浪漫派宣言」の時は、ほとんど僕らでカメラマンから何から用意したからね。

和嶋 「なまはげ」もね(笑)。いや、だからこそ、いろんなバンドの歴史も感じるんだよね。

鈴木 映像を観ていて、メンバーだけがわかる裏事情もあったりね。「この時はこうだったから、こうなってるんだ」とか(笑)。

和嶋 そういう意味では、全部がいっぱいいっぱいのお腹一杯感っていうよりは、緩急があって楽しめる作品集なんじゃないですかね。
                    Photo by 西槇 太一


鈴木 ホントそうですよ。力を入れて頑張ってるからそのビデオがいいかって言ったら、そうでもなくて。

ノブ ははは!

和嶋 そればっかりが続くと疲れるんだよ。

鈴木 そう。力が抜けてるのが、またいいんだよ。この「東洋の魔女」の“切り貼り”もいい味出してる!

和嶋 どこだったかよくわからないライヴ映像が入り込んできたり。

鈴木 そういうのこそ、ファンが観たいんですよ。

ノブ でも、そうだろうなあ。「浪漫派宣言」とか、ファンのみんなも観てみたかっただろうね。

和嶋 いや~、改めて「浪漫派宣言」を観て、僕は感動したけどね! なんか胸が熱くなりましたよ! 懐かしいのと、手作り感満載で。

ノブ 高円寺のShowBoatで撮ったから、狭いんだよね(笑)。
 



■お気に入りのMVを一つ挙げるなら……

――思い出話がとめどなく溢れ出てきますね。敢えてお三方に伺いたいんですが、自分のお気に入りのMVを一つ挙げるとしたら、どれでしょう?

鈴木 俺は「ダイナマイト」ですかね。

ノブ 取られた!(笑)

鈴木 あのね、記録映像としてすごいものを観てしまったっていう気がする。

一同 (爆笑)


――確かに、よくぞ残っていましたという映像です。今あの恰好でやれと言われたら?

鈴木 できない。もう俺、脱げないし。

和嶋 いや、今でも胸をはだけてるじゃないですか(笑)。

鈴木 あんな風には脱げないって(笑)。

ノブ 俺は「なまはげ」ですかね。ライヴらしい映像じゃないですか。ファンクラブの人に手伝ってもらったのもあるけど、なんかこう、3人のパワーみたいなのを感じる。DIY精神がある(笑)。

和嶋 お気に入りっていう意味では、僕もノブくんと同じ理由で「浪漫派宣言」なんだよね。この頃が多分いちばん苦しかったんですよ、いろんな面で(笑)。そのなかでもMVを作ったっていうのが……。なんか褒めてあげたい感じがするんだよね、みんなを。お客さんのことも。

ノブ このMVはどこでかかったんだろう?
                        Photo by 西槇 太一

和嶋 作りはしたけど、ほとんどどこにもかかってないんじゃないかなぁ。ここで頑張ってたからこそ今があるということで、「浪漫派宣言」が好きですね。


――そんな人間椅子の美しい軌跡が観られる、と。

和嶋 やっぱり、盤を出すのがメインの活動なんですけど、こうやってMVを作るのも思い出として非常に残りますね。その時の画が残るわけですよ。自分たちとしては記念になるし、今後も作っていきたいです。もちろん、面白いものを。
 



■今後撮りたいMVは?

――今後、どんな映像を撮ってみたいですか?

和嶋 鈴木くんが言ったように、時期さえ合えば、野外をまたやってみてもいいんじゃないですかね。

鈴木 そうだね。ノブくんは演技したいって言ってたし。

ノブ ドラマ仕立てのね(笑)。

鈴木 それも今までと同じく、売り上げに比例した感じで。金がない時は低予算で、金がある時はリッチな感じ。その時のバンドの状態から無理しないように撮っていきたいですね。

和嶋 そうですね。そこはフレキシブルにいきたいです。低予算からお金のかかることまで経験済なので、どっちもやれますから(笑)。

ノブ やり方もわかってるからね。

鈴木 最悪の場合、俺らには“切り貼り”がある(笑)。

一同 (爆笑)

鈴木 スマホで動画を撮っただけでもプロモになる時代ですからね。ついでに言えば、俺、8ミリで撮ってみたいね。金かかるらしいけどね。

和嶋 今、敢えて、そういう昔の映画っぽいのをね。「命売ります」もだいぶそんな感じになってますけれども。

鈴木 無声映画時代のタッチが好きなんだよね。

ノブ でも、俺らのMVで無声映画というわけにはいかないもんね(笑)。

和嶋 実は結構いろいろやってるんだよね。「怪人二十面相」はそのタッチじゃないですか。とはいえ、まだまだやりようはあると思います。


――これからもバリエーション豊富な映像が出てきそうですね。

和嶋 はい。「命売ります」は敢えて突然モノクロになってますけど、そんな感じでいろいろと。

ノブ ただハワイで遊んでるだけ、みたいな映像も面白いよね。

和嶋 かねてから、そういうアイデアは出てましたね。メンバーがどこかで遊んでるやつを。あと、僕の夢としては、女の人が周りでものすごく踊ってるやつがいいな。ヴァン・ヘイレンの、水着のおネエちゃんが出てくるMVみたいに。

一同 (爆笑)

鈴木 和嶋くんの画ではそういうのにすればいいんじゃない? 俺はパチンコ屋で死ぬほどドル箱を積んでる画にして。

和嶋 そういうのもいいね。全編、水着の女性が出てくると、すごい反感を買うおそれがあるんで(笑)。


――すごく景気のいい感じですね。

和嶋 そうそう! アメ車に乗って、女の子が後ろにいる、みたいな感じがいい。

鈴木 いや~、俺、アメ車とかオープンカーは是非一度やってみたいよ。

和嶋 それぞれの夢がちょっとずつ出てくるっていう。

ノブ 3人がバイクに乗ってるのを撮るのもカッコいいよね。和嶋くんの水着のおネエちゃんたちがクネクネ踊ってるのが、いつの間にか相撲取りに変わってるとか、そういうのも観てみたいな(笑)。相撲取りだらけのなかで和嶋くんが小さくなってね。

和嶋 だんだん押されていって、見えなくなるっていう。今時ない、いかにもなMVもいいですね。


――夢は膨らみますね(笑)。最後にお訊きしておきたいのは、現在開催中の〈おどろ曼荼羅~人間椅子2018年春のワンマンツアー〉(全11公演)という全国ツアーについてです。こちらも見所豊富なのでは。

和嶋 MV撮影にまつわるエピソードが1曲ごとにありますから、こぼれ話も絡めつつ、各地を廻りたいですね。ニュー・アルバムを出してのツアーではないので、皆さんお馴染みの曲をやるわけです。やる側も聴く側もちょっとリラックスして楽しめるのではと思ってます。


――ファンの皆さんは、このMV集を観てからライヴに臨むと、面白い発見もあると思うんです。

鈴木 このなかに入ってる曲はツアーで全部やるつもりなんで。


――ということは、久しぶりに聴ける曲も?

鈴木 あります。全部を1ヵ所では無理だけど。

ノブ いつものように、近県を3ヵ所ぐらい観てもらえれば、全曲コンプリートできるようになってます。


――人間椅子が描く〈おどろ曼荼羅〉、これからも楽しみにしています!

 

      Photo by 西槇 太一



リリース情報

『おどろ曼荼羅~ミュージックビデオ集~』 
4/4(水)発売
Blu-ray Disc: ¥3,704(税別)  TKXA-1119
DVD:     ¥2,778(税別)TKBA-1251


全16曲 *( )内は、オリジナル作品リリース年

りんごの泪(1990)
夜叉ヶ池(1991)
ギリギリ・ハイウェイ(1995)
ダイナマイト(1995)
幽霊列車(1999)
怪人二十面相(2000)
見知らぬ世界(2001)
東洋の魔女(2003)
洗礼(2004)
品川心中(2006)
浪漫派宣言(2009)
なまはげ(2014)
宇宙からの色(2014)
恐怖の大王(2016)
虚無の声(2017)
命売ります(2018)


■ライブ情報
『おどろ曼荼羅~人間椅子2018年春のワンマンツアー』(全11公演)
4月1日 高松 Olive Hall 
4月3日 神戸 Chicken George
4月5日 博多 DRUM Be-1
4月7日 沖縄桜坂 セントラル (沖縄公演のみオープニングアクトあり)
4月9日 大阪 umeda TRAD(前AKASO)
4月11日 名古屋 Electric Lady Land 
4月18日 札幌 cube garden 
4月20日 仙台 CLUB JUNK BOX
4月22日 青森 Quarter
4月24日 宇都宮 HEAVEN’S ROCK Utsunomiya
4月27日 東京渋谷 TSUTAYA O-EAST

全公演共通詳細
チケット料金:前売り4000円/当日4500円(税込/ドリンク代別)
チケット発売中
http://ningen-isu.com/schedule_live/


■LINE LIVE情報
LINE LIVE「BAR 人間椅子倶楽部」決定!
4/14(土)22時~


全国ツアーの合間にメンバー全員が生出演します。
URL:https://live.line.me/channels/1360248/upcoming/7928997