筋肉少女帯 結成40周年CD「いくぢなし(ナゴムver.サイズ)」
大槻ケンヂ(Vo)&内田雄一郎(Ba)による公式インタビュー!
 

今作は結成40周年記念作品という位置づけですよね?

大槻 そうですね。40周年というのはめでたいことですからね。

内田 長い間やっているので、何周年というのがしょっちゅう来ますからね(笑)。
 

まず今作を作るにあたり、当初は若手の表現者とコラボを考えていたそうですね?

大槻 エルトン・ジョンもやっているじゃないですか。フランク・シナトラもやっていたけど、世代を超えて交流することで、新しいサウンドが見つかることは双方にあることだから。それで誰とやるのが面白いかなと考えたけど、若い奴でどうかしている人がいるかなと思ったら・・・それは過去の自分たちじゃないかと。
 

ちなみに若い表現者で頭に浮かんだ方はいました?

大槻 う~ん・・・特に。いろいろ勉強しようと思っていた矢先だったんでね。個人的にボカロPの最近の歌い手さんは歌詞の切れ味がなかなか面白いなと。つまり、教室でちょっとはぐれた男の子、女の子の気持ちと言うか。筋肉少女帯(以下、筋少)の曲で言うと、「蜘蛛の糸」、「香菜、頭をよくしてあげよう」で歌っているテイストに近いものを若い人の歌にも感じますね。それは歌詞的な面でね。あと、サウンド的な面は僕はFMラジオを夕方によく聴くんですよ。若い人の音楽が流れるんだけど、みんなかっこいいんだよなあ。

内田 ははははは。

大槻 チルってるんですよ。カフェ・ロック的なものに面白いものが多くて。
 

内田さんはいかがですか?

内田 この人ははっぴいえんど大好きだなとか、そういうのはわかりますね。

大槻 はっぴいえんど流れの若者は多いよね。

内田 うん、いいんだけど、もっとブチかませよ!という気持ちもなきにしもあらず。若いんだからさ!って。でもそういう音楽をやっていると、長くできるよね。筋少の音楽は選手生命が危ぶまれるプロレスみたいなものだから。

大槻 ははははは。
 

結果、今作は「若い頃の自分たち」とコラボするという発想に辿り着いたと?

大槻 そうですね。自ずとセルフカヴァーにもなるし、面白いんじゃないかと。今回は空手バカボンの楽曲が2曲あるんですけど、これだけ長くやっていると、筋少も空手バカボンも変わらないなと(笑)。

内田  一応、分けていたけど、もういいかって。

大槻 何でしょう、平安京も平城京も変わらないよ、大昔だからという意味で。

内田 はははは。こだわりがどうでも良くなってくる(笑)。
 

全部、自分たちの中から出てきた表現だからOKだろうと。

大槻 若かりし頃という括りで見れば、同じですからね。
 

今回の選曲に関してはお二人で話し合ったんですか?

内田 まず「いくぢなし」をナゴム・バージョンでやろうとなり、それからほかの2曲が上がってきた感じかな。

大槻 セルフカヴァーしたことがない曲という基準があり・・・ああ、ちょっと言い方があれか。「いくぢなし」はナゴム・バージョンと、『SISTER STRAWBERRY』バージョンがあるから。『SISTER STRAWBERRY』バージョンはナゴム・バージョンのカヴァーではあるけど、また別のテイストなんですよね。だから、ナゴム・バージョンのカヴァーをやろうと。あと、「いくぢなし」はライヴでやりたいんだけど、『SISTER STRAWBERRY』バージョンだと尺が長くて、セトリに入れにくかったから。コンパクトにまとまったナゴム・バージョンをカヴァーすれば、セトリにも入れられるなと。あと、近年、ポエトリーリーディングに興味があったので、それもやってみたかったんです。

内田 そうだ! 忘れてました。筋少は40年前の高校生の頃に始めたんですけど、その前の中学の頃にザ・ドテチンズという友達を集めたバンドがあり、うちのエレクトーンがある部屋でガンガン演奏していたんですよ。そしたら友達が浮かれて歌い出した「空手チョップは負けないぞ」という曲が大元なんですよ。それがいろいろあって、『SISTER STRAWBERRY』バージョンになるんです。今回はその過程で出来たナゴム・バージョンをベースにセルフカヴァーをやってみようと。今聴くと、大変幼いところもあるけど、ヘンなことをやってやろう!というパワーを感じますね。
 

当時はどんな楽曲を作ろう、という目論見があったんですか?

大槻 当時の記憶がないんですよねえ。全然覚えてない。

内田 「空手チョップは負けないぞ」という中学の頃に作った曲を、高校生がスタジオでセッションしながら作った感じですかね。

大槻 あのベースラインはどうやって作ったんだろうね。「テケテケテケ~♪」って、あの展開はどうしてああなったの?

内田 それはスタジオで弾いてたら、これいいじゃん!って。「テケテケ~♪」は中学の頃からあった。

大槻 それは覚えているんだけど、その後のフレーズはなぜそうなるのって。あれはかっこいいよ!

内田 ベースを弾いていて、偶然これ面白いじゃんって。素人っぽい発想から出てきたものですね。

大槻 後半の「ジャジャン♪」ってまとめていく展開もルーツがわからないというか、突然変異的にできたよね。

内田 うん、あそこはおいちゃん(本城聡章)が考えたと思う。考えてすぐに辞めたから、弾いたのはBERA(石塚BERA伯広)なんだよね。

大槻 あ、そう!デモテープは最初おいちゃんが弾いてたんだ。

内田 いや、スタジオで考えたときにおいちゃんは辞めたんじゃないかな(笑)。

大槻 一度さ、新宿LOFTで「いくぢなし」をやったときに、俳優の手塚とおるさんが出てきて、モノローグを語るという。ロックと芝居のコラボみたいなこともやりましたね。

内田 それが『SISTER STRAWBERRY』バージョンになっていく過程だね。

大槻 「いくぢなし」はあの頃、インプロヴィゼーションで歌詞もその場で作って喋ってたんだよなあ。どんどん長くなっていきましたね。
 

頭でこねくり回すというより、その場の発想や思いつきで歌詞やフレーズも考えていたと。

大槻 若さゆえの怖いもの知らずで、演奏していた曲でしたね。
 

「いくぢなし」はポエトリーもありつつ、演劇的な要素も入ってます。音楽だけに限らず、周辺のカルチャーを巻き込んだ曲調に仕上がってますよね。

大槻 寺山修司の「天井桟敷」とか、ああいうこともやってみたかったのかもしれないですね。
 

「いくじなし」をカヴァーしてみて、新たな発見はありましたか?

内田 そうですね。今回は基本形を崩さずに、昔のまんまにデモを作って、今のメンバーのものを入れてもらう作業をしました。基本はほとんど変えてないですね。「いくぢなし」は特にそうです。いろんな発見はありました。なぜこんなコードになっているんだろうとか、解読したら面白かったです。当時の感じは思い出せないけど、いい加減だったから、その適当さがいいんだなと。音楽って別に何でもいいし、自由でいいんじゃないかと。
大槻 歌詞の面で言えば、表現者を志す若者の閉塞感みたいなものを語っているものが多いと思うんですよ。「いくぢなし」という言葉は自分に対して言っていたんでしょうね。表現者を志す者として、もっとアウトサイドを歩かなきゃいけない。決意を胸にしろ。迷わずいけよ、行けばわかるさと。

 

(笑)。

大槻 それを自分自身に叫んでいたんでしょうね。
 

ナゴム・バージョン、『SISTER STRAWBERRY』バージョン、どちらも大槻さんの中にある鬱屈した感情みたいなものが歌にも表われてますよね。

大槻 出てますよね。ただ、ナゴム・バージョンの方がより色濃く出てると思います。『SISTER STRAWBERRY』バージョンはそこからもう少し広げて、ポエトリーリーディングのインプロヴィゼーションみたいな、短編を長編にしようという試みがあったので、色合いが変わったんですよ。だから、ナゴム・バージョンの方がバシッと言いたいことを言い切ってる。特に今回のバージョンは何十年も前の自分に、それで満足したつもりかい?って。「この根性なしが」と最後の歌詞で言われるという。皮肉に落としているという意味で面白くできたと思います。
 

さきほど大槻さんはポエトリーリーディングをやりたかったと言われてましたが、それは?

大槻 自分は結局、シンガーではないという思いがあるから。そもそも歌手になろうと思って、歌手になったわけではなく、何か自分を表現したくて・・・その中でロックというものに出会ったんです。楽器ができないから、ヴォーカルになったんですよ。自分は歌い手である意識は全くなかったし・・・歌唱というものから解放されてみたいという思いはありましたからね。歌うのではなく、語りたいという気持ちはずっとありましたね。語っている曲に惹かれる自分もいましたから。

内田 基本、叫びでしたよね。

大槻 うん、叫びだった。若い頃は叫びたかったんだけど、今は呟きたい、囁きたいという気持ちかな。叫ばずに、ただ思いを語りたいという。そのためにはポエトリーリーディングが一番いいんだろうなと。筋少でもポエトリーの曲はありますけど、「いくぢなし」はずっと喋ってますからね。今回の3曲はずっと喋っているなと。
 

確かに。カップリングの2曲は空手バカボンの楽曲になりますよね?

大槻 「KEEP CHEEP TRICK」はいい曲だとずっと思っていて、もう少しコンパクトにして、歌ものとして録り直したいと思っていたんです。
 

この曲は実験的であり、どこかアングラ感も漂ってます。

大槻 うん。当時は歌い切れなくて、僕の中ではブルース的な意味合いもあったと思うけど、そういうものを歌う力量がなかった。わからないまま歌っていた部分もあったけど、時間が経って、この曲はこういう歌い方じゃないかなと思いついたところもあったから。

内田 そうなんだ。この曲はライヴで一度もやったことがなく、当時レコーディングするつもりもなく、ケラさんから出そうよと言われて、ほぼアドリブで作ったので、すごくいい加減なんですよ。
 

そうなんですね!

内田 いい加減というか、ほぼアドリブなんですよ。多重録音しているから頑張って録っているけど、パーッと作っちゃったから。

大槻 自分ではそう思っても、他人はいい!というケースはありますからね。例えば内田くんが作った「ホワイト・ソング」という曲があってさ。僕はピンと来なかったんだけど、ケラさんが「これいいよ、俺に歌わせてよ!」と言って、自分のソロに入れたんだよね。

内田 他人が曲の良さを見出すことはあるからね。
 

「KEEP CHEEP TRICK」はアレンジ面で考えたことは?

内田 フランク・ザッパの「The Torture Never Stops(邦題:拷問は果てしなく)」という曲がありまして、当時そういう雰囲気にしたかったことを思い出したんです。でもエレクトーンなので、そういう風にできなくて(笑)。テリー・ボジオ(Dr)とかが叩いているから、再現不可能だと思ったけど、今だったらそれができるなと。
 

「The Torture Never Stops」は好きな曲だったんですか?

内田 そんなに好きな曲でもなかったんです(笑)。エレピの感じがいいと思ったのかな。
 

「KEEP CHEEP TRICK」は当時やりたかった思いを汲みつつアレンジを加えたと。原曲はヴァイオリンを導入し、スペーシーな雰囲気もありました。今回はヴァイオリン・パートはギターに置き換えてプレイしてますよね?

大槻 あのヴァイオリンは内田家にあったよね?

内田 質屋から3千円くらいで買って、全然弾けないにもかかわらず買ったから入れようと。しかもあれは1テイクなんですよ。間違えても弾き直さない。それくらいいい加減なレコーディングだったんです。
 

でもその揺らぎ加減がいい味になってます。

大槻 うん、空手バカボンはそういうところがいいと思う。

内田 そうね。ひどいと思っているんだけど、みんながいいと言うから(笑)。

大槻 普通はあんな感じを出せないもん。
 

この曲はアレンジ面で考えたところは?

内田 ほかの曲もそうなんですけど、基本イジらずに頭とエンディングだけは違う要素を入れました。作るうちにどんどんいい感じになって、特に大サビはエディ(三柴 理)がピアノを入れるときに「ピアノ・コンツェルトみたいにしてよ!」と言ったら、すごく嬉しそうに壮大なピアノを入れてくれたので。あそこは近年ではいい感じになったなと。
 

あの壮大なピアノはクラシカルな雰囲気もあっていいですね。あと、オペラ調の歌い回しも入れてますよね?

内田 当時、ヴォーカルのキーも考えて作ってないですから。オリジナルを聴くと、ものすごく高くて。今回はキーを変えずに、オクターブ下で歌うという。逆にそれがいい感じになりました。

大槻 このヴォーカルの声の高さが一番合っていると思う。だから、何十年ぶりにちゃんと歌われたなあという気がしますね。当時は何も考えずに素っ頓狂な声で歌っていたけど。この曲は語って、しみじみ歌うべきだなと思ったので、今回はそれができたので嬉しかったです。
 

独特なメロウ感が出てますよね。

大槻 そうですよねえ。若い頃は二極化でしか物事を考えられなくて、アウトサイダーとして生きるのか、社会の歯車の一つとして消えていくのか、その葛藤を歌っているんだろうなと。それはこの歳になっても思うことなので、みんなが心に抱えている普遍的なことなんじゃないかと。あと、この曲を歌い終えた後にコロナを発症しちゃいました。で、内田くんを濃厚接触者にしてしまいました。
 

その後の作業は?

内田 止まりましたね。エンジニアさんも発症しちゃいまして。

大槻 えっ、ほんと?

内田 そうだよ。

大槻 それって僕?

内田 多分。

大槻 ああ、申し訳ない!それは知らなかった。

内田 しょうがないよ、それは(笑)。
 

「7年殺し」の方は大槻さんのラップ調のヴォーカルが耳に引っかかります。

大槻 言葉尻を置きに行ってますよね。近年のJラップも自然と耳に入ってくるから、日本語は言葉尻を置きにいくと、聴こえがいいんだなと。実際にやってみると、語りやすくなるんですよね。だから、意図的にやりました。多少ラップめいた語りにすると、手も自然とチェケラっぽくなっちゃって(笑)。
 

曲調はお祭りっぽいというか、踊れるサウンドにも仕上がっています。これは内田さんが作った楽曲ですよね?

内田 TALKING HEADSが好きだったので、それっぽい感じで、「バカボン バカボン♪」と言ったら面白いかなと。そういう思いつきだけです。これもエレクトーンで作ったので、サンバっぽいリズムになったけど、今回はよりアフリカンというか、80年代のニューウェーブ・バンドが取り入れていたエスニックな感じを、今だったらできるかなと。結果、語りとかもそのままで、ゴージャスになったかなと。

大槻 最初はTALKING HEADS的なものを目指して、「バカボン バカボン♪」というコーラスをお願いしたけど、結果的にちょっと違うなと。それはTALKING HEADSを全く通っていないメンバーがいるからだろうね。みんながデヴィッド・バーン好きだったら、モロにそうなっていたかもしれないけど、独自のところに向かっているところが筋少らしいなと。
 

原曲よりもスタイリッシュになって、オシャレ感は増してます。

大槻 何よりジャンルがわからないから、そこが面白い(笑)。
 

異国情緒ぶりは出てますよね。

大槻 そう! フュージョンに寄せているのかと思ったら、そうでもないし。セッションにしてはキメが多いし、そのわからないところが不思議な映画のサントラみたいな仕上がりでいいなと。
 

ライヴでも踊りたくなる楽曲ですね。で、今作のリリース後の11月はデビュー35周年カウントダウンシリーズ「KEEP CHEEP TRICK TOUR」を控えてますが、どんなツアーにしようと思っていますか?
大槻 ぶっちゃけ考え中で、コロナ禍でその頃は声出しOKになるのかな。ライヴって発声OKかどうかで、演出も変わってくるから。もう少し状況を見て、皆さんが楽しんでもらえるセットリストを考えようと思ってます。

 

内田 地方自治体によって対応も違うだろうし、ツアーも同じセットリストで回れないこともあるだろうから、それはそれで面白いですよね。大きく状況は変わらないだろうから、その中で俺たちは闘っていかなけりゃいけねぇんで(猪木のマネで)。
 

これは余談ですけど、同じ11月にCHEAP TRICKがデビュー45周年で来日ツアーを行うんですよね。

大槻 そうなんですよ。昔、CHEAP TRICKが「永遠の愛の炎(The Flame)」(1988年)を歌っていた頃かな。日本武道館でライヴがあり、知り合いのライターから電話がかかって、ライヴの数時間前に「今から来て、一緒に歌わないか?」と言われたことがあるんですよ。でも(日本武道館がある)九段下にどうやって行けばいいのかわからなくて、断ってしまったんですよね。そんなこともありましたねぇ(笑)。



TEXT:荒金良介





■「いくぢなし(ナゴムver.サイズ)」リリックビデオ


筋肉少女帯 大情報局
徳間ジャパンコミュニケーションズ 筋肉少女帯 アーティストページ


リリース情報
タイトル:いくぢなし(ナゴムver.サイズ)」
2022年11月9日(水)発売
CD+DVD
TKCA-75110 ¥3,850税込
商品ページは→コチラ

【CD 収録内容】
1. いくぢなし (ナゴムver.サイズ)
2. KEEP CHEEP TRICK
3. 7年殺し
4. いくぢなし (ナゴムver.サイズ) [Instrumental]
5. KEEP CHEEP TRICK [Instrumental]
6. 7年殺し [Instrumental]

【DVD 収録内容】
筋肉少女帯 Debut35th カウントダウンシリーズ
「祝!筋少結成40周年記念ライブ」2022年5月12日(木)開催 CLUB CITTA'公演より
<ディレクターズ・カット>
1. 小さな恋のメロディ
2. モーレツア太郎
3. I,頭屋
4. 週替わりの奇跡の神話
5. 楽しいことしかない
6. 夜歩く[Instrumental]
7. イワンのばか
8. カーネーション・リインカネーション
9. トゥルー・ロマンス
10. 釈迦

ライブ情報
■【筋肉少女帯 Debut35th カウントダウン シリーズ】
「KEEP CHEEP TRICK TOUR」
・川崎 CLUB CITTA' 
11月8日(火) OPEN18:15 / START19:00(全席指定)
・名古屋 CLUB QUATTRO 
11月12日(土) OPEN17:15 / START18:00(All Standing)
・なんば Hatch
11月16日(水)  OPEN18:00 / START19:00(全席指定)
・江戸川区総合文化センター
11月26日(土)  OPEN16:45 / START17:30(全席指定)

Support member:Pf.三柴理 / Dr.長谷川浩二